課題図書紹介『海と毒薬』
遠藤周作『海と毒薬』(新潮文庫)
✏️はじめは淡々とした「私」の日常が描かれていて平凡な本に思われた。だが、読み進めていくうちに不気味な描写が多くなっていき、気味悪くなっていった。
舞台は戦争末期の九州の大学附属病院。ここである残虐な、忌わしい実験が行われる。その実験へと足を踏み入れていく3人の人物の生い立ちや背景がそれぞれの目線で描かれている。
私が特に印象に残ったのが、3章の戸田君の話だ。時代が戦争中だということもあり、作中には病院と関するたくさんの「死」が登場する。だが、戸田君は人の死を目の当たりにしても、恐怖を感じない。自分の罪を醜悪だと思うことはあっても、苦しむことは無い。本人は「他人の眼や社会の罰だけにしか恐れを感ぜず、それが除かれれば恐れも消える自分が不気味だ」と述べている。あまりに自分の感情に無関心な戸田君の様子に私は不信感とさらなる不気味さを感じた。
また、最後の佐伯彰一さんの解説にも注目して欲しい。『海と毒薬』という題名が何を表しているのか。冒頭の私の日常の意味。そしてこの本の主題。解説を読むことで作中に散りばめられた不気味な描写一つ一つの意味が見えてくるだろう。(4組 Sさん)
そういえばかつてこの本を課題図書で出したとき(58期のときです)、興味深い内容だったので、モデルになった事件を扱った↓の本も図書館で借りて読んでみた、と話してくれた生徒がいました。
今、彼女は医学部で学んでいます。