課題図書紹介『漂う子』
明日確認テストですね、丸山正樹『漂う子』(文春文庫)です。
✏️『漂う子』は『デフ・ヴォイス』の著書が書いたということで、他の小説とは一味違うものだろうと思っていましたが、まさにそのとおりでした。いい意味で、すごく後味の悪い作品です。キレイに終わらない、というのがこの作品の良さであり、それは現実に潜んでいるであろう、この本の題材となった社会問題の解決がいかに難しいかということを表しているようです。
主人公の直は、恋人の祥子の教え子、紗智を探すことになります。その過程で知ることになる、「居所不明児童」の闇。直は、親になるということの責任、子である自分が子を持つ上でどうするべきかを痛感します。
「血はもうとっくに入れ替わった。今の俺は、細胞から全部俺のもんだ。」これは、この本の印象的な表現の一つです。自分は、この言葉に頭を殴られたような気がしました。元々、この言葉は「親は親、自分は自分なのだから、親と同じような人間に自分がなるとは限らない」という意味で作品中に出てくる言葉ですが、裏を返せば、自分がどんな人間になろうと、すべて自分の責任ということです。遺伝子のせいにはできないのです。そう思ったとき、自分は漠然と、ちゃんとした人になりたいと思いました。あなたがどのような人間になろうと、すべてはあなたの責任ですが、あなたはそのうえでどのような人になりたいですか。
この小説に描かれているのは、ちゃんとした暮らしをしてきた人であれば、誰しもが目を背けたくなるような現実です。例えば、自分は初めて知ったのですが、路上で生活していた子どもたちは、普通の暮らしを送れるようになってもまた路上に戻ってきてしまうことが多いらしいです。他にも、捨て子や虐待など、馴染みのないようなもの。ですが、それはきっと「馴染みがない」というだけなんです。あまり、自分の周りで見ることがないから、そういった問題はなくなってきているのだろうと思い込んでしまうのであって、実際はもっと多くを抱えているはず。そう考えずにはいられません。そして、そんな汚い現実を知っても、できることが少ないというのが、この作品がもつ後味の悪さです。
そして、最高に後味の悪いラスト。この本を読み進めていく中で知った現実が、ラストを如何様にも解釈させます。フィクションとして読めばとても面白いですが、現実と関連付けて読むと、決して前向きなだけでない気づきがあります。しかし、読んで後悔したとは思わない、不思議な本でした。(8組Y君)