課題図書紹介『52ヘルツのクジラたち』
中杉課題図書100冊の旅、すでに5冊が終わりました。6冊目はこちら。今回から順次、図書委員さんが書いてくれたレビューをこの学年ブログ内で紹介していきます。
町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』(中公文庫) |
📖主人公・貴瑚の今を生きる姿と過去の自分の生き方に苦しむ姿が交互に描かれていき、繊細に描かれていく。読み進めるうちに、現在の貴瑚の中から生まれてくる力強さが少しずつ表現されていっているのがこの「52ヘルツのクジラたち」の魅力だと思う。出会った少年をかつての自分の姿と重ね、交流も重ねていくうちに彼女が自分の中で死んでいたものが緩やかに蘇っていくのを感じる彼女の姿が丁寧に描かれていた。また、彼女の周囲の人々にも存在する葛藤や後悔などの暗い感情も鮮やかに書き出し、私に強い印象を与え、どんどんページを進めたくなった。
透明感のある情景を感じさせる文章で作り上げられた作品だと私は思った。(6組図書委員)
傷ついた過去を持つ人が救われる時、それは現在の自分が過去の自分と対峙し、自分が自分を救うことができた時――というのがこの作品の一つのメッセージかもしれないですね。委員さんの書いた通り、貴瑚は少年との出会いを通じて過去の自分と出会い、少年を支える形でかつての自分自身も救っていくのです(貴瑚が「力強さ」を伴う様子は、そんな過程で読者に伝わるのでしょう)。皆さんもぜひ読んでみてください。
私は、アンさんの不器用さが本当にもどかしく感じられました。他人との距離感をどうとるかって、今まで自分がどう生きてきたか/どう育ってきたか ということが大きく関わって来ると思います。相手に求めるものは尊くても、それが過度になったりうまく伝わらなかったりするのは、往々にしてほどよい距離感を築けないゆえだと思うのです。描かれていないアンさんの時間の中で、アンさんはきっと貴瑚との距離感について悩みもがいたに違いありません。誰にも助けを求めず、一人静かに、優しく、深海に佇むクジラのように。貴瑚の幸せを思うあまり、貴瑚の知らないところで行動に出たアンさんのやり方は踏み込みすぎだし勝手に動きすぎだし、距離感が明らかにおかしい振る舞いでしたが、不器用なアンさんなりの、そう育ってきたアンさんなりの、精一杯の誠意を表したのかもしれないですね。貴瑚がアンさんの思いを知り貴瑚なりに受け止めたこと、それも"救い”の一つの形なのかもしれません。
(話は変わりますが)高校国語の現行カリキュラムでは、文学に触れる機会が以前より少なくなっています。そのことを危惧した記事(5月1日付)が「PRESIDENT Online」で発信されましたが、その中で『52ヘルツのクジラたち』がひょこっと一箇所出てきます。ネットニュース等読んでいて、今読んでいる本の名前が出てくると「おぉっ」って思いますよね、ということでシェアします😊
高校3年間を通して「羅生門」しか読まなくていいのか…灘中学の国語科教師が懸念する"文学離れのマズさ"
中杉の課題図書は文学作品ばかりとは限りませんが、やはり"高校生のうちにもっと文学に触れてほしい”という思いも込めてこのような制度を設けています。ぜひ、本の中で生きているたくさんの他者との出会いを楽しんでください。
(次回の確認テストは5月20日です📖)
GW、4日間全てお天気に恵まれましたね!コロナが5類に移行して初のGWでした、人出の多さも実感したのでは。少し伸び伸び過ごせましたか。明日また元気に登校しましょう!