課題図書紹介『走れメロス』(太宰治短編集)

中杉課題図書100冊の旅、7冊目はこちら。こちらも確認テストは5月20日朝です。

太宰治『走れメロス』(ハルキ文庫)

📖 太宰治の代表作「走れメロス」と一緒に収録されている「トカトントン」という話を紹介します。

 この話はある悩みをもった26歳の青年の話です。その悩みとは何かやる気になったときに「トカトントン」という音が聞こえてきて、その音を聞くとやる気が削がれてしまうというものです。熱中する趣味があるわけでもなく、だが死ぬ気にもなれず、ただただ無気力に生きる青年の日常が“とある人への手紙”という形で描かれています。読み進めるうちに、彼が「トカトントン」という音を初めて聞いたのはいつのときだったかということを知れます。私は、この青年が手紙で伝えたかったことは、きっかけとなった出来事の残酷な様子と、その終焉を伝える報せを聞いた時のとてつもない喪失感を伝えたかったのではないかと思いました。(5組図書委員Su)


📖 今回は『走れメロス』に収録されている「富嶽百景」について紹介しようと思う。

 この話の特徴は、作者太宰治が師匠である井伏鱒二の紹介で知り合った妻と結婚する頃の作品ということで、明るくどこかユーモアに溢れた空気感が漂っているというところである。あらすじは、富士山について否定的な考えを持つ主人公が富士山の見える御坂峠で数ヶ月間過ごすというお話だ。主人公が数ヶ月の間に様々な人と関わり、それぞれの人にとっての富士山を知ることで、どこか否定的に捉えていた主人公自身の気持ちも前向きになっていく。

 有名な「富士には、月見草がよく似合う」という表現も出てきます。主人公の心情によって姿を変える富士山があることを知って、自分にはどんな姿が見えるのか試してみたくなる作品でした。(5組図書委員Sa)


収録作品は「懶惰の歌留多」(1939)「トカトントン」(1947)「走れメロス」(1940)「富嶽百景」(1939)「黄金風景」(1939)計5編。「青空文庫」のサイトでも読めます。

太宰の作品は前期・中期・後期と作風が異なります。(どんな作風か、検索するといくつかのサイトで読むことができるでしょう。)実家からの勘当等、数々の挫折を経験した前期は破滅的、結婚し自身の家庭を築いた中期は自由で肯定的、戦争を経てなお執筆に至る後期は再び破滅的・退廃的な作風を有すると言われます。

今回の5編は、「トカトントン」を除きいわゆる“中期”に属する作品です(「トカトントン」は“後期”)。太宰と言えば「走れメロス」しか読んだことのない人も多かったでしょう。これを機に、他の短編にも触れてみては。太宰の他の作品を読み、どこか漂う諦念や斜に構えた視点を得ることで、それまで道徳の教科書教材のように感じられた美しい絆と信念の物語「走れメロス」が、ちょっと違う奥行きを伴って読めるかもしれませんね。