課題図書紹介 重松清『また次の春へ』(文春文庫)/シェイクスピア『ヴェニスの商人』(新潮文庫)
学年末テストで問う2冊です。
まずはこちら。
📖重松清『また次の春へ』(文春文庫)
研修旅行先が舞台の小説、第二弾。今回は東日本大震災を扱った重松清の短編集です。思いもしなかった突然の別れ、失われたそれまでの当たり前に過ごしていた穏やかな日々、震災は容赦なく希望に満ちていた"明日”や"小さな幸せ"を奪っていきます…。それでも、皆それぞれの足取りでささやかな日常を取り戻していくべく、生き続けなければなりません。作品の中の登場人物がそれぞれどんな思いで、どんなふうに日々の中で歩き出そうとしているのか、皆さんも追ってみてください。
「誰が悪いとか、誰のせいとか、もう関係ないよ。悪いのは運だけで、それが運命だったんだ」「やりきれないものをすべて運命が受け止めて、悪者になってくれる」
受け止めきれない現実に直面したとき、人は言葉にして乗り越えようとします。すぐに正解や納得する答えなんて得られないけど、さまざまもがきながら言語化することにより、起きたことを受け容れようとします。皆さんはどの言葉が響くでしょうか。
✏️この本『また次の春へ』には、直木賞作家である重松清さんが執筆した7つの短編小説が収められています。表題作である「また次の春へ」など、これらの作品の多くは東日本大震災をテーマにしたものです。震災の被害によって大切な誰かを失った悲しみや苦しみを乗り越えようと、もがく人々やそれを支援する人たちの想いが細かく丁寧に書き表されています。日常を失った彼/彼女たちの心の内に触れてゆく度にきっと読んだ人の心が動かされることでしょう。
この本に収録されている作品の中には、過去に高校入試・中学入試やその模試などで国語の問題の題材として扱われたものもあるようです。もしかすると懐かしさを感じる作品もあるかもしれないので、一度読んでみてはいかがでしょうか。(1組 H君)
📖シェイクピア『ヴェニスの商人』(新潮文庫)
二冊目は有名な古典作品『ヴェニスの商人』。
前回の『経済学』の本を読み、「意外と面白かった!」という声が多く聞こえましたが(そうでしょう?中大や本校の先生方が高校生にそう思ってほしくて執筆なさった渾身の一冊です)、この作品も、経済学と絡めて語られることが多々あります。有名なのは岩井克人『ヴェニスの商人の資本論』(筑摩書房)。その他、作品をベースに解説が繰り広げられている文章も多く目にすることでしょう。web上で手軽に読めるのはこれとかこれとか。
作品を読んだあとにちょっと覗いてみるのもいいかも。
✏️誰もが知るシェイクスピアの作品であるこの本は、喜劇として書かれています。
ヴェニスの商人であるアントーニオーは、親友のバサーニオーの恋のために、悪徳高利貸のシャイロックから借金をしてしまうという話です。もし、期限までに返済できなかったら、アントーニオーの胸の肉一ポンドを切り落とす約束をしてしまい、さらに、アントーニオーには不運が重なり、借金を返せなくなってしまいます。
ここからどうなるのか、劇を思い浮かべながら、楽しく読める点がこの作品の魅力であり、また、劇ならではの表現の豊かさは、想像力を膨らませ、見事な脚色だと感じさせます。
この作品を読んでいて興味深いと思ったのは、登場人物の視点それぞれで作品の見え方が変わってくることです。アントーニオー側から見ると、シャイロックは悪役に見えますが、シャイロック側から見ると、悪役なんかではなく、困った彼にお金を貸してあげ、胸の肉はただの担保なだけ、という正当性があります。シャイロックはユダヤ人だということもあり悪く描かれていますが、客観的に見るとどちらが正しいのか、考えさせられる物語だなと思いました。
この作品は、人種差別だったり、様々なことを考えさせられます。大逆転劇で単純な喜劇というだけではなく、魅力ある作品だと思います。(4組S君)