課題図書紹介です

 夏休みの課題図書紹介です。

もっと早くレビューをもらっていたのに、遅くなってしまい申し訳ありません。

楽しんで読めましたか…?中島敦は読みにくかった、という声も寄せられましたが、「山月記」は授業でも読む予定です。自分の中で「読み」がどう変わっていくか、味わってみてくださいね。


🐅中島敦『李陵・山月記』(新潮文庫)


「その声は、我が友、李徴子ではないか?」 この言葉だけを知っている人も多いだろう。「山月記」は中島敦のデビュー作であり、中島作の小説の中で最も有名である。山月記は唐の時代、西域近くに生まれた李徴の経歴が語られるところから始まる。曰く、李徴は若くして科挙に受かり、名を挙げ、江南地方で役人になる等の相当のエリートである。一方、彼は奢り高い者で、すぐに役人をやめ、山に籠り、詩に励む。しかし妻子をもった身を支えられるほどの名を挙げることができず、都に上りまた役人となる。役人として働きながら、詩の才能と役人としての行き遅れに日々絶望する。そんな中、ある出張途中の川の辺で李徴は闇の中に飛び起き「遂に発狂した。」

奢り高き李徴にも若き時には友がいた。温和な袁傪は厳しい李徴の性格にも合致し、一番の親友だった。その後コツコツとキャリアを重ね、官史の取り締まり役になった。彼は勅命を果たすため朝早くに道へ入ろうとすると、現地の役人に停められた。曰く、人食い虎が出ると。しかし大勢の付き添いの者もいるので声をかき分け進んだ。そのとき草むらの中から虎が躍り出た。袁傪は身を覚悟したが、虎は気を変えたように舞い戻り、「危ないところだったと」確かめるように何度も呟いた。袁傪は震えながら、記憶の中の友人の声につられて虎に向かって叫んだ。「その声は、我が友、李徴子ではないか?」

このような背景を持つ真逆な二人の最後の交流が、戻れない日々を思い出させる名作である。

同じく中島敦の傑作であり遺作の「李陵」も印象的である。前漢の時、遊牧国家の匈奴に対抗するため果敢に挑みましたが敗北、捕らえられてしまいます。しかし匈奴の王に厚遇され客のように過ごす日々の中、同じく捕まっても屈しない将、蘇武を見て祖国と自分の間で揺れ動く。一方その頃、古代中華の歴史書「史記」を完成させることになる司馬遷は、漢の皇帝が敵に下った李陵に激怒する皇帝に反抗する。明確な意思を持たないものと持つものの差が、触れ合わないながらもはっきりと示される。

「山月記」と「李陵」はどちらも違う道を行った者たちの差を、古代中国の壮大なスケールで写し出した紛れもない傑作であり、ぜひ二つの物語を比べながら楽しんでほしい。

(6組・H君)


🐛カフカ『変身』(新潮文庫)


父母と妹を養うために働いていたグレゴール・ザムザは、ある日目覚めると巨大な虫になっていた。人間であった頃のグレゴールの想いや夢をしらぬまま、家族の虫になってしまったグレゴールへの態度は変化してしまった。

――この物語は、理不尽な運命を与えられた青年の孤独や人の存在意義、家族愛の曖昧さがテーマとなっています。

グレゴールがいなくなったあとの場面では、人の存在が「役立つかどうか」で測られてしまう社会と家族の冷酷さが生々しく現れています。人間の尊厳とは何か、そして無条件の愛は本当に存在するのかを鋭く問いかけているのです。

しかし、視点を妹に変えると、最初は虫となってしまったグレゴールと兄として向かい合おうとしても、虫になり変わってしまったその生き物に嫌悪感を抱いてしまいます。

非常に後味が悪い物語で、グレゴールの家族が冷酷であるように感じますが、もし自分が、自分の家族が虫になってしまったらどうなるかは分かりません。ぜひこの本を読んで、自分の存在意味や家族愛について、哲学を考えるきっかけにしてみてください。

(3組・Kさん)


✨️辻村深月『この夏の星を見る(上・下)』角川文庫



この本は異なる場所に住む中学生高校生達が、コロナによって変わってしまった環境の中でもできることを互いに探していき、県を超えて人との繋がりを作っていく話です。
私達もちょうどコロナによって修学旅行などの行事の多くが中止になった世代です。そのため、痛いほど当時の状況を思い出し、登場人物たちと自分を重ねて共感できる内容となっています。
読んでいくと、今まで普通だったことが急に否定され、どうすればよいのか世間も自分も煮え切らないなかでも、それぞれの登場人物たちの芯の強さや決意に背中を押され、前向きになれる作品となっています。

今だからこそできることは何なのか考えさせられました。
(4組・Iさん)



📗中央大学法学部『高校生からの法学入門』中央大学出版部

オ―プンキャンパス等に行き、法学がぐんと身近に感じられた人も、自分の進みたい道は法学以外の分野だなあ…と思った人も、社会の様々な事象を法的思考で捉えるとどのようになるのか、面白く知ることができると思います。ぜひ読んでみてくださいね。


法学について考えたことは、小さい頃以外ありませんでした。小さい頃、私はドラえもんの違法アップロードをYouTubeで見てしまっていました。その後、映画館で観る映画の最初に映画泥棒の警告が出てきたのを見て、驚いた記憶があります。あれは犯罪だったのだと気づいてたくさん検索したのが最後であり、あまりそれからは法律について考える機会がありませんでした。
ですが、この本を読んで自分の周囲に存在する意外な法律の穴について、もう一度考えさせられました。どこか懐かしく、心からワクワクするのを感じました。小さい頃に自分が独学で調べた時は「いったい何を言ってんだ」という状態でしたが、この本を読んでみると、当時意味がわからなかったところも具体的な事例を織り交ぜて、詳しくわかりやすく書かれてあり、とても好奇心をくすぐられました。(7組・N君)