課題図書紹介 坪倉優介『記憶喪失になったぼくが見た世界』(朝日文庫)
夏休みの課題図書紹介です。
📖この本はノンフィクションであり、筆者の記憶を失ってからの人生を書いたものです。
筆者は事故をきっかけに、自分の経験や思い出・人間関係だけでなく、それまでに得た知識や物の概念や存在すらも忘れてしまいます。私たちが日常生活の中で当たり前に使う言葉や文字、道具の使い方までもです。私が面白いなと感じたのは、そんな状態で始まった筆者の第二の人生とその成長を文章の書き方で表現するところです。目覚めたばかりの頃は、平仮名ばかりで抽象的な表現が多く、間に挟まる「母の記憶」が異質なもののように思えます。しかし、時が進むにつれて文中には漢字が増え、気持ちの変化や感情がはっきりと書かれ、物の存在がその形通りに使われるようになっていきます。筆者の成長の軌跡を文章の内容だけでなく、形として捉えることができるのがいいなと思いました。
自分の記憶をすべて失うのがどんなことなのか、自分の知人が記憶喪失になるのはどんなことなのか、私には想像もつきませんが、わからない、できないないなりに挑戦し成長していく筆者の強さに感動しました。(1組Tさんより)