課題図書紹介 山本譲司『累犯障害者』(新潮文庫)
課題図書100冊の旅、18冊目はこちらです。
この本をご紹介くださったのは作家の丸山正樹さんです(次の課題図書として出した小説『デフ・ヴォイス』の作者さんです)。丸山先生は、この本を読んだことが『デフ・ヴォイス』を執筆なさったきっかけとなったとのこと。一度犯罪に至った認知症の人々や障がいを持つ人々が再び犯罪に関わり、刑務所だけが安住の地だったとばかりに戻ってきてしまう――そんな社会問題を描き出すルポルタージュです。
(ここからは図書委員さんによるレビューです)
📖メディアが報道するのはいつでも世間の関心を引くと思われるものや、世の中の流れに則ったものばかり。だからこそこの書がノンフィクションであるということに驚きを隠せない。知的障がいを持つ人々が繰り返してしまう軽犯罪や、逆に知的障がいを持つ人々が対象となってしまう事件。そういったエピソードがこの本にはありありと描かれている。世の理とそぐわない彼らだからこそ受けてしまう"常識”の壁。また、それを利用せんとする輩。どれもどうしようもない現実なのだ。読み終わると同時に様々なことを考えさせられたが、そのなかでも最も考えたのは、障がいがある人たちが罪を犯していると思っていないということだ。知的に障がいがあるがために、犯罪を善悪として判断し、悪と捉えることができないのだ。何が正しくて何が正解で何をしたらこのような人達のためになるのか。またそれらを両立させられるのか。永遠に分からないような気になる大きな問題を実感する、そんなルポだった。(8組G君)
📖この本を読んで、今まで自分の身近なところで生じた出来事や、数々のニュースを思い出した。障がい者だから「しかたない」のか?障がいは犯罪の免罪符になるのか?と私は疑問に感じていた。そしてこの本からはたくさんのヒントをもらった。驚くべきことばかりだった。
特にろうあの方たちのコミュニティの在り方が私の想像を絶していて、彼らが普段使う手話が聴者が学ぶことができる手話とはかけ離れているということが衝撃だった。また、刑務所が自分にとって唯一安全で居られる場所であり、収監されることが目的で犯罪を犯す人がいることなど、本当に初めて知ることばかりだった。それと同時に、筆者が携わった刑務所内での更生、矯正プログラムなどが進むことで当事者が起こす犯罪(主に再犯)とそれに苦しむ被害者が少しでも減り、そして障がいがあることが原因で加害者にならずとも安心して暮らせる社会の仕組みになってほしいと心から思った。
障がいを持つ人々の起こす犯罪について深く考えるきっかけをくれた、私にとって衝撃の一冊だった。(7組Nさん)
(以下、小泉の話ですが)
以前、弁護士として活躍なさっていた卒業生の方に連絡を取ったところ、もうその方は弁護士をしていなくて、「福祉に転職した」と言われたことがあります。弁護士として働く中で、実際に累犯障がい者の方々がとても多い現状を目の当たりにし、社会をよくし人々を救えるのはもっと別の職業がある、と気づいたそう。障がいのある方々の社会的自立を支える機関に就職なさっているとのことでした。「課題図書で山本譲司『累犯障害者』を出しているんですよ」と話したら当然その卒業生の方も読んでいて、今の中杉生も読んでいるんですね!読むべき一冊ですよね、と言われたことがあります。