課題図書紹介 丸山正樹『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』(文春文庫)

 課題図書100冊の旅、19冊目はこちらです。

昨年度NHKでドラマ化された『デフ・ヴォイス』。作者の丸山さんは、過去2度本校にご講演にいらしてくださったことがあります。きっかけは(課題図書として読んだ)この本が面白かったとTwitter(当時)でつぶやいた中杉生に、丸山さんがリプライをくださったこと。

そこからご縁が繋がり、作品の誕生秘話、作家としての思い等、さまざま語っていただきました。SNSで作者さんと繋がれるんだ…とびっくりしたものです。(確か、51期が3年生のときでした。2016年です。)

過去2度ご来校いただいた際の記事です。よかったらご覧ください。

2016年ご講演  2022年ご講演①  2022年ご講演② 


以下、図書委員さんによるレビューです。

📖 この小説は、主人公荒井が手話通訳士として働くかたわら、とある殺人事件の真実を突き止めようと奮闘する物語である。

私がこの小説を読んで印象に残ったのは、主人公荒井が自分の過去を回想するシーンである。彼は、耳の聴こえない両親と兄がいる家庭で育ち、「自分だけ耳が聞こえる」ために孤独な幼少期を過ごした。私は、荒井が幼少期に感じた孤独と、障がい者が抱える孤独には共通するものがあると感じた。周りの人と違うがために、本当の意味での絆を他者と築けない苦痛、これは環境次第で誰もが感じうるものであると同時に、相手を理解しようとする歩み寄りによって緩和できるものでもあると気付かされる作品だった。(7組S)


📖 この本にはたくさんの視点が存在する。主人公と同じ立場の視点、ろう者の視点、聴者の視点、読者の視点…。読み始めたとき、僕はろう者の視点を持ってこの本を読んでいた。だが、それは終盤で大きく変化した。この本は、ぜひとも様々な視点で読んでもらいたい。

この作品は一読すると、面白いミステリー小説だという印象。しかしこの本からは、ミステリーの要素以上に、作者の"伝えたい”"メッセージを届けたい”という思いが強く感じられた。なんだか手話みたいだ。そう思うと、ろう者のお話だから自分には関係ないか、とは思えなくなった。我々は誰でも、自分の思いを届けること、他者に受けとめてもらうことを欲している。

「届けたい言葉を届ける」そのことに価値があるのだと思わせる、そんな本だった。届ける人がどんな人間かは関係ない。また、言葉を届けるためには、聞く側の人間もその言葉を受け取るように努める必要がある。互いが手を取り合って言葉は伝わる。例え相手がどんな人間であろうとも、言葉を交わし合えるような、そんな社会を私は望む。(5組Y)