課題図書紹介 川上弘美『神様』(中公文庫)
課題図書紹介です。この短編集で、一気に川上弘美ワールドに引き込まれたのでは?
授業で扱ってはいませんが、現代の国語の教科書10ページに、川上さんのエッセイが載っています。「境目」というタイトル。「わたしはあなたでなく、あなたは彼ではない。(中略)それはなかなかに味のあることではないだろうか?」という一文で結ばれています。
はっきりとした「境目」を設けない。「境目」を設けることで生み出される「差別」や「暴力」に寄り添ってはいけない。そんなふうに綴る川上さんが、異界とこちらの世界、というように「境目」を設けずたゆたうような不思議な空間を繰り広げているのがこの本だと言えるでしょう。
📖この小説は、9つの短編から構成されています。だからといって、ひとつひとつのお話が完全に独立しているわけではなく、複数のものは同じ登場人物によって動いています。そのため、それぞれの日常だったり、非日常だったりを時間の流れをともにしながら垣間見ているようで、読んでいるうちにわくわくした気持ちになりました。
また、登場人物についての情報が最低限であることも、想像や解釈の幅を広げることにつながっていて、とても面白かったです。そしてもう一つ、私はこの小説の特徴として、「非日常の扱い方の穏やかさ」があると考えました。それはどういうことかというと、これらのお話では、多くの作品の中で特別視されやすく、人間との邂逅時には、驚きや恐怖といった感情で表現されやすい存在についても、それがそこにあることが自然なことのように書いていることがほとんどなのです。それが、よりこの小説の不思議な世界観を引き立てているように感じられて、そんな表現の仕方がとても素敵な作品だなと思いました。(5組・Tさん)
📖『神様』の驚異的なところは、世界観が全く違うというところだ。1作目から「くまさん」という登場人物が出るが、人の名前かと思いきや、本物のくまなのだ。また、当然かのように河童が存在していたり、ツボから魔人が出てきたりする。しかしながら、彼らと主人公が織り成す物語はその斬新な設定とは裏腹にとても繊細なもので、心情描写がとても丁寧で読みやすい。読書嫌いの人にでもおすすめしたい作品となっている。あなたもぜひ読んでみてはいかがだろう。(8組・Gくん)