稲田豊史『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』(光文社新書)
課題図書100冊の旅、20冊目です(5分の1が終わりますね!)。
映画やドラマを倍速で観ている人はいますか?「手短に」触れたい、知りたいというファストな文化はどのような社会背景から生まれたのでしょう?この一冊を読むと、なるほどと思うと同時になんだかせつなくなってくるかも…
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📖SNSが普及し毎日有り触れた情報に触れなければならない時代を生きている私達は、「タイパ」求めて生活をしている。友達や世間の話題について行くために様々な情報を追わなければならない。すると私達は情報番組やドラマ、映画を早送りまたは10秒飛ばし機能を使って見るようになる。
私はこの話を読んであることが頭をよぎった。ある時イヤホンを忘れて電車に乗り、ボリュームをゼロにて字幕をつけ、ドラマを見たことがある。その時は何も思わなかったが、この本を読んだ後に思い返すと字幕をつけただけで内容がわかってしまうほどセリフが説明的だったことに気づいたのだ。加えて、字幕があれば倍速にして聞き取れなくても目で追うことが出来るため、内容を理解することが出来てしまうのだ。
通常、ドラマや映画は、余韻や「間」を器用に扱い、演技ならではの雰囲気を楽しむものだと私は考える。しかし最近のドラマや映画はどうなのだろうか。私達がタイパを意識しすぎるが故に、作品を表面上で消費するだけになってしまっているのだ。
また、セリフが説明的であることの理由として現代社会は表現の仕方ひとつで批判が飛び交う世の中だということだ。誤解されないために、誰も傷つかないために、誰が見てもわかる位、わかり易すぎる言葉が用いられているのだ。果たしてこの変化は本当に必要だったのだろうか。時代が進んでいくと共に変化は必ず必要になるものだが、このような変化が今後私たちにとって何か良い影響を及ぼすものなのか。そんなことを考えさせられる作品だった。(2組 Kさん)
📖あなたは何かを早送りしたことがあるだろうか?
この本は若者の生活に馴染んでしまった映像の早送りの様々な観点から大きなメスを入れる本である。
著者は昔、DVD紹介雑誌の編集長であり、仕事をこなす為に早送りして評価をしていたがその後に作品を見返し、作品の印象が大きく変わった経験を持つ人物である。
そのような早送り反対派の著者だが、文章はとても公平で簡潔であり、ただ読んでいるだけでも著者に好感がわく。
そのような著者が文章の中で、若者の映像の早送りの原因を若者が時間やお金の失敗、ムダを嫌い「タイパ」を大切にするからだと述べている。また、お金も時間もない中、ストリーミングサービスを使用するのも「タイパ」を求めているからだと言う。
このような作者の主張を聞いて、私は一昔前に世間で囁かれた”世界一チャレンジしない日本の20代”と言う記事を思い出した。
この記事は日本人の特性、社会構造から、チャレンジする人が少ないと言うものであった。
若者が映像を早送りすることと若者がチャレンジしないことには関連性がそれほど多くないと思うが、いずれにしても冒険するのを恐れているのは確かだ。この傾向はより効率の良いタイパを若者が求めるのにも繋がる。
しかし、冒険を恐れてしまうのは、本の中でも触れられていたように、不安定だった経済やキャリア教育政策が効率を求めるように推進したからだ。
つまり、効率を求めて早送りすることも、大量生産・大量消費の現代大衆文化やバブル期の文化のような歴史が示した大衆による文化の一つであり、作品への向き合い方としては理解しがたいが、ただ否定するのも違うと私は感じた。(3組 Hくん)
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…本ではタイパ重視、という論旨になっているけれど、効率を求めてあれこれ奔走するのに疲れた人が多く見受けられるこの頃。「脱タイパ」に向かって若者は進んでいるのかな?こんな記事も。いろいろこの本をきっかけに考えさせられますね。
(リセマム、9月27日配信)