課題図書紹介 宇佐見りん『推し、燃ゆ』(河出文庫)
中杉課題図書100冊の旅、10冊目はこちら。確認テストは期末試験にて。
本作が芥川賞を受賞したとき、作者の宇佐見さんは21歳でした。「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい」から始まる主人公が捉える世界。主人公の世界は「推し」なしでは成り立たない――あかりは、しばしば「推し」を背骨に例えたり、「推し」の存在がなければ生きる意味がないと語ったり、生命を維持するうえでの拠り所を「推し」に据えていますね。でも、どこかで冷静さを失わない。例えばこの語り。面白いと思いませんか。
学校がないぶん今までより集中できるかもしれない、推しを推すだけの夏休みが始まると思い、その簡素さがたしかに、あたしの幸せなのだという気がする。
「推し」を「推す」だけの夏休み――それって「簡素」なの?「贅沢さ」や「至福の悦び」なんて言葉は入らないの?「推し」に依存しているようでいて、どこか第三者的な視点から自分を見つめつつ生きる、そんなあかりに読者の私達は引き込まれていきます。
結局、〝推す〟とはどのような行為なのでしょう。いたずらにはしゃぐのではなく、いたずらに閉鎖的な世界を作るのでもなく、自身の内奥と限りなく向き合い、そして自身を突き放す、そんなことを繰り返す行為なのかもしれません。
📖『推し、燃ゆ』の物語は高校生のあかり(主人公)という人物が推している人が炎上したところから始まる。その後、あかりが「推し」のためにする行動などが語られる。そのなかで僕が印象的だったのは、「推し」の星座占いなどのラッキーアイテムを自らが持って行ったり、「推し」の情報を赤シートなどで隠し覚えたりするなどといった描写だ。あかりは昔から姉とは違い、漢字や英単語などを覚えるのが苦手であったが、「推し」の情報は覚えることができた。好きな存在のことなら抵抗なく記憶できる、という勉強面との対比が鮮やかだった。また、「推し」が燃える前と燃えた後であかりの性格が少し変わり、昔の自分のブログを見ると恥ずかしくなってしまっているという場面は大いに共感できた。「推し」がいる人は身近にも存在するので、私達にとって馴染みやすい物語だと思った。
(3組図書委員・Iくん)
📖「推し」という単語を日常でよく聞くようになったのでは無いだろうか。一日の中で何度も聞くこの単語だが、一体「推し」とは何なのか。人それぞれ何が「推し」の対象なのかは様々だ。私はこの本を読んで、自分の芯を持つことの大切さを改めて実感した。主人公は何かと不器用で繊細だが、「推し」のためならどんなことも無理してやりきる性格だ。主人公は「推し」の炎上をきっかけにどんどん「推し」中心の生活へ変わっていった。これは自分以外の人(この本で言う「推し」)が自分自身にもたらす影響の大きさを象徴していると考えた。私たちは生活をしていく上で多くの人と関わることになるが、その中で知らずのうちに人からの影響を受けて変わってしまう部分があると思う。それは良くも悪くも自分自身に反映し、場合によっては自分を見失ってしまうことにも繋がると思う。だからこそ、人と関わる上で譲れない強い芯を持つことが大切であると考えた。この本は日常の中の「推し活」という一部を切り取って、ぶれない確かな芯を持つことの大切さを感じさせてくれる本だった。
(2組図書委員・Kさん)