課題図書紹介 岩井圭也『永遠についての証明』

 中杉課題図書100冊の旅、9冊目はこちら。こちらも確認テストは6月10日朝です。


若き天才数学者3名が、共同研究で画期的な成果を上げる。しかしそのうちの1人、三ツ矢瞭司の才能は、やがて数学の美しさを共有できたかけがえのない仲間たちとの関係性を壊してゆく――彼の死から6年、遺された仲間は、未解決問題の証明らしきものが記された瞭司のノートを発見する…。数学に挑んでゆくと見えてくる奥深さ、自らの才能をうまく享受できないもどかしさ、さまざまな世界が繰り広げられていた一冊でしたね。読んでみていかがでしたか?

今回も図書委員さんからのレビューを紹介しますね。


📖この物語の主軸となるのは「数覚」に恵まれた三ツ矢瞭司とその周囲の人間との関係性です。だから、数学の未解決問題についてが導入に記されていても、読み解くのに苦労はしませんでした。代わりに感じたのは、数学の才能はあっても、自分の立場や周囲に与える影響について、その真価がいまいちわかっていない三ツ矢瞭司へのもどかしさでした。彼の人生の真ん中にはずっと数学があるから、自分をきちんと理解してくれる人が少ない。その分、そうであってくれる人や居場所を拠り所として大事に大切にして、それを失うことを強く恐れる。外から見ればわからなくても、三ツ矢には人間らしい弱さが備わっています。そんな三ツ矢と、熊沢と、佐那。3人の関係性や違い、それぞれの個性や決意、後悔などが、生々しさもありながら繊細に描かれていて、とても面白かったです。(1組Tさんより)


📖物語には著者が伝えたい心理、もしくは読者に与える真理がある。この物語はありふれた研究者(この場合数学者)の群像劇である。しかし、「シンリ」はそのドラマ性ではないとい事がこの物語の特異性だ。

この物語のシンリは、登場人物である暸司がぶつかるふたつの壁に存在する。人は生きる上で何かしらの苦難に出会い、学び強くなるが、瞭司は数学の天才故に困難など今までなかった(数学において)。つまり、ある意味では子供のまま大人になってしまったのだ。自分を天才と信じて疑わなかった瞭司が、周りに受け入れられず、認められない。そして、壊れていくのだ。これは大衆的に捉えれば、「自分を理解して貰えない辛さ」を表していると私は考える。また、物語を逆説的に捉えれば理解されなかった瞭司は孤独感に苛まわれていたともとれる。物語中で、瞭司を理解し孤独感を埋めてくれる人達が登場するが、彼らは結局才能を持つ瞭司を妬み、距離をとるようになってしまう。ここで人間関係の難しさを描いていると私は考える。人は出会えば別れるが、瞭司にとってはその出会いが唯一無二だったのだ。孤独を知っている彼だからこそ、その反動は大きかった。「孤独であることの辛さ、人といることの大切さ」そういったものを私はこのシーンから感じた。

この双つの辛さがきっと著者によるシンリの表現なのだろう。(8組Gくんより)